蠱(こ)とは古代中国の呪術である。
ひとつの器に小動物や昆虫を入れて殺し合いをさせ、最後に残った一匹には強い呪力が宿るという。
過去、心に大きな傷を受けた姉と弟。二人は幼少を過ごした街に戻ってくる。 その町並みは、二人の癒えぬ心と呼応するかのように諦め枯れ果ててしまっている。「アイツ」の存在。 それは治りかけの傷口に似ている。我を忘れてその醜さを凝視してしまう。治りかけとわかっているのに掻きむしってしまう。二人には、傷口から血が吹き出そうとも、その行為を止めることが出来ないのだ。 その同じ「蠱」に喰われた傷だけが、二人の絆になっていることが、どうしようもなく悲しい。 しかし、物語は最後に救済を与える。それは血だらけになりながらも、自力でつかみ取った「生」に他ならないだろう。
本作は『赤猫』(04)の大工原正樹が5年ぶりに撮り上げた新作中篇。
脚本は、寡作ながらその質の高い仕事ぶりが注目され続けている井川耕一郎。 (『西みがき』・監督、『赤猫』・脚本)撮影・照明は、一般映画と成人映画を自在に往還し、 自主映画もコンスタントに撮り続けているベテランの志賀葉一。 録音は、こちらも商業映画から自主映画まで幅広く活躍する『接吻』(監督:万田邦敏)・『害虫』(監督:塩田明彦)の臼井勝。 音楽には、映画のサウンドトラック初挑戦のミュージシャン・中川晋介。
主演は、コアな邦画ファンから熱心な支持を得ている長宗我部陽子(「恐怖」「行旅死亡人」)と、 「東京乾電池」の舞台にも立つ岡部尚(「PASSION」「実録 連合赤軍」)。 二人が憎しみの輪廻にはまり込む姉弟を繊細に印象深く演じている。 共演は、話題作『へんげ』(監督:大畑創)の公開が待たれる『赤猫』の森田亜紀と監督・脚本最新作『旧支配者のキャロル』が完成間近の高橋洋(『恐怖』監督・『リング』脚本)。高橋は、主題歌「姉ちゃんのブルース」の作詞も担当。