純情№1』
純情No.1
2011年/20分/HDV
監督・脚本:大工原正樹
出演:長宗我部陽子 北山雅康 猪原美代子 市沢真吾
撮影・照明:山田達也 録音:臼井勝 音楽:山根ミチル
解説
主人公の女の見事な思い込みが、終始デタラメな展開を呼ぶコメディ、なのだろうか? 大雑把に言ってしまえば、憎しみがつきぬけてやがて愛に変わるお話な気がするのだが、なんだか違う気もする。タイトルもデタラメなようで、確かにこれしかない気もする。ひょっとしたら大工原正樹に騙されているのかもしれない。ただひとつ言えるのは、主演の長宗我部陽子がデタラメでチャーミングでひたすら楽しい映画であるということだ。
『ミニチカ<完全版>』
ミニチカ<完全版>
2007年/7分/DV
監督・脚本:大工原正樹
出演:佐藤康恵 新谷尚之 万田邦敏 西山洋市 井川耕一郎 植岡喜晴 篠崎誠
スタッフ:共同脚本・島田元 撮影:平野真吾 録音:黄永昌
解説
美人スパイ・ミニチカと強烈な個性を放つおやじスパイたちが同志から送られる暗号解読に奮闘するナンセンス・コメディ。珍妙な暗号を解読した末に、彼らが迎える意外な結末とは……? キュートな女スパイを佐藤康恵が好演。スパイたちを振り回す「謎の男」を演じる新谷尚之の怪物ぶりに注目。本気で遊ぶとは、こういう事だ! BS-TBSで製作されたショートムービー。放映版より2分長い<完全版>で上映。
『電撃』
電撃
2011年/HD/37分
監督:渡辺あい
出演:美輪玲華、安藤匡史、波多野桃子
脚本:冨永圭祐 渡辺あい 制作:地良田浩之 笠原雄一
撮影・照明:星野洋行 録音:川口陽一 中瀬慧 清水絵里加 美術:山形哲生 原太一
衣装:坂本博之 スクリプト:中島知香 助監督:冨永圭祐 内藤瑛亮 山形哲生 佐野真規
撮影助手:神保卓也 照明助手:芳士戸一成
スタントコーディネート:根本大樹 スタント:イチコ 編集:地良田浩之 渡辺あい
整音:中瀬慧 音楽:上松翔一
STORY 「愛するタカヒロが浮気をしているーー」。けれどミチコは、いつかタカヒロの愛を取り戻せると信じていた。「だって、わたしのお腹にはあの人の子が宿っているのだもの……」。ミチコは寡黙に、タカヒロの身の回りの世話を焼く幸せを噛みしめていた。しかしある日、タカヒロの妹と称する少女が現れ居候をはじめた日から、ミチコの愛の生活が音をたてて崩れ始める……。
解説
渡辺あい、本気の処女作。この時代錯誤な設定に「リアル」をもたらしているのは、間違いなくヒロイン・美輪玲華の圧倒的な存在感だろう。美輪が演ずるミチコは劇中ある職業を身に纏うのだが、その職業がギミックと見えてしまえば失敗のこの映画で、彼女は登場の瞬間からそれが紛れもない現実であることを、そのフィクション性の高い肉体と佇まいで表現してしまう。そして、美輪の時代錯誤を際立たせるはずの波多野桃子も、一見今の少女風を装いながら、現代のそれとは真逆の「速い」芝居で美輪の存在感にたち向かう。そして、二人の女に挟まれる安藤匡史のストイックな受けの芝居が絶妙なアンサンブルを生み出す。これだけ配役に成功している映画が面白くないわけがないのだが、この三人の想いが錯綜するドラマは、大胆な省略をそうとは気づかせないしっとりとした情緒も絡ませながらクライマックスへと向かっていく。いくつもの謎を残しながら。渡辺あいは、ここが映画的な見せ場だというポイントを逃さない。特に3つあるラブシーンの演出は見るものをハッとさせ必見。つまり、運動神経がいいのだ。
コメント
正直、渡辺あいの演出には、やや迷いを感じる。
現場での悔いが残留思念となって映し出されてしまったような場面もある。
だが、それでもこの映画には渡辺の類い稀なる作家性と、今後の短編市場にとっての重大な可能性が秘められている。
ひとことで言って、これは現代版『四谷怪談』である。
伊右衛門は仕事と称してはパソコン画面ばかり見つめる草食系(一見)。
お岩は伊右衛門の子を宿しているが、肉体的接触はおろか視線すら合わせてもらえず、家政婦の立場に甘んじている。
そこに伊藤喜兵衛の孫娘・梅にあたる人物がやってくる。
梅は奔放な十代の娘で伊右衛門の「妹」を自称するが、兄であるはずの伊右衛門に対し、不自然なまでの肉体的接触を開始する。
嫉妬と疑念を抱いたお岩は調査を始めるが、ある日、身ごもった腹を梅にフォークで刺されてしまい……。
この時点で物語はまだ3分の1しか経過していない。
たった36分の短編にもかかわらず、だ。
脚本は冨永圭祐と渡辺あいによる共著。高密度な前半部に舌を巻いた。
その後、映画は『四谷怪談』とは似て非なる物語に発展してゆくのだが、さてどうなるか?
事の顛末は是非スクリーンでご確認いただきたい。
演者のなかでは、自称「妹」を演じた波多野桃子が圧倒的に素晴らしい。
彼女の生々しい存在感が、この映画に不足しがちな血肉と鉄分を与えている。
ようするに、波多野桃子は肝臓なのだ。
肝臓は今の日本映画界にもっとも足りない臓器である。
大切に育ててい かなければならない。
ーー三宅隆太(脚本家、映画監督、スクリプトドクター・『七つまでは神のうち』『呪怨 白い老女』ほか)
『収穫』のころと比べ、だいぶ大人っぽくなった波多野桃子さん。彼女が演じる妹は、年上の女を怖れおののかせる威力いっぱいでゾクゾクしました。あのむにゅっとした足にあの靴下、あのスカート丈、恐ろしい計算です。
対 する×××(=とある職業)は、やはり×××モノっていいなって思ったんですが、それにしても一体なぜ、×××は皆、笑いのツボを心得ているのでしょう か。この×××も、強敵を相手にしながらも密かにくすぐってきます。また、考えてみれば、妹VS×××という強力女キャラの取組になってるんですが、しか し2人の対決は、涼やかな声でなされているせいか、不思議な心地よさがありました。
そしてお兄ちゃん。美形です。美学校の映画で美形男性がちゃんと美しく映っているというのは、実はなかなか貴重なんじゃないでしょうか。
ーー粟津慶子 桃まつりKiss!『収穫』監督
『静かな家』
静かな家
2008年/30分/16mm
監督:長谷部大輔
出演:奥ノ矢佳奈 田中洋之助 河野純平 仲谷みなみ
脚本:服部隆志 制作:小川大樹 助監督:後閑広 撮影:安部雅行
録音:青木瑠生 美術:難波和之 編集:真下雅敏
STORY
中学1年生の友澤なみき(13)は父親の英也(40)と二人暮らし。ある朝、なみきは英也に告げる。「お父さん、ワタシ、人を殺したい。できれば、お父さんがいいんだけど」 その日からなみきと英也の関係は急速に変化し始める。夏の気配、優等生のレッテル、母の不在、父の失業、そして父への本当の想い……。はたしてなみきは父を殺すのだろうか?
解説
父への複雑な思いから放火を繰り返す少女と、娘の変調に戸惑いながらも普通の親子でいようと無理を重ねる失業中の父。綺麗なものとどす黒く汚いものが同居するから面白いのだという長谷部大輔の人間観がここでも随所に炸裂しているのだけれど、不思議とリリカルな印象を残す。セリフを最小限に抑えながら、描写することの喜びに満ち溢れた長谷部版『台風クラブ』。(※数秒間、フィルム原版による画の乱れあり。ご了承ください)
コメント
感情が高ぶると足をもつれさせる少女という着想は悪くない。廃墟でひたすら壁に空き瓶を投げ続ける少年少女の描写には映画を感じた。奥ノ矢佳奈の瞳の動きにえもいわれぬ生々しさがある。
ーー塩田明彦:映画監督(『害虫』『カナリア』『どろろ』)
長谷部大輔の脳内には頭の固い映画青年とガソリン常備の過激派と真顔の変態男が同居しているらしい。その混沌とした感性が、スクリーンの中で思春期の美少女と二人三脚で静かにもがき、暴れ、転ぶ。ニヤニヤ笑いが抜けない愛すべき一作なのであった。
ーー直井卓俊(プロデューサー)
長谷部大輔の『静かな家』は、この後に『棄てられた女たちのユートピア』(オムニバス『人の砂漠』より)と『浮雲』を撮ったとは思えない瑞々しさにあふれている。しかし、自ら構築した世界を壊す破壊衝動が突発的に顔を出す瞬間の衝撃と、少女の肉体に漂うエロスまで射程に入れて映画を構築しようとする姿勢にはゾクゾクするような興奮を覚える。
ーーモルモット吉田(映画ライター)
妙に西洋趣味な室内空間。正体不明な“普通”を謙虚に守ろうとする父親の言動。燃やす、転ぶ、食べるという映画的描写。作品全体がシニカルさに満ち満ちていて、笑い無くしては観られない。なんだろう長谷部作品に見られるこの明るい悪意は!白い家で向かい合って納豆を食べる。そのねばつきが長谷部大輔だ。
ーー石川翔平(ポレポレ東中野)
『正当防衛』
正当防衛
2010年/16分/16mm→DV
監督・脚本:伊野紗紀
出演:宮田亜紀 佐藤奈美子 森田亜紀 小野島由惟 香取剛
渡部佐枝子 川島玄士 内海敦 原田浩二 菊池直彦
スタッフ:中瀬慧 和泉陽光 今岡利明 神田光 木村栄一郎 小岩貴寛 宝田恵一 西田純 原田浩二 吉田峻
STORY
強い決意を胸に市役所を辞め、人材派遣会社の営業に転職した桜井。派遣スタッフ、顧客、後輩そして上司に挟まれた桜井に次々とトラブルが降り掛かる。一人、また一人と社員が去っていき……。極限まで追い詰められた桜井が、自分を守るために求めたものとは。
解説
希望を胸に転職した人材派遣会社で高圧的に成果を求める女性上司や規則を守らない派遣スタッフの対処に追われる桜井。やがて上司の圧力に耐えかね辞めていく同僚たち。取り残され、極限状態になった桜井が最後に求めたものは……。 監督・伊野沙紀の実体験を元にしているだけに細部のリアリティには凄みがある。終盤、宮田亜紀演じる桜井が線路沿いを歩く後姿のショットが、彼女の崩壊を伝えて痛々しい。
『わたしの赤ちゃん』
わたしの赤ちゃん
2010年/16分/16mm→DV
監督・脚本:磯谷渚
出演:藤井百代 森田亜紀 新井秀幸 福田英史 泉水美和子
スタッフ:上田紳一朗 大坂春菜 大野裕之 小形進之介 奥野達也 神保准 山田剛志 山本豪一 和田格
STORY
臨月を迎えた初美は妹の千佳と安産祈願に訪れるが、神社の階段から転がり落ちて死産してしまう。半年後、無事出産した千佳の元へ初美が訪れる。千佳は子供に、初美が自分の子供につけるはずだった、葵という名をつけていた……。
解説
姉妹の「痛快」な愛憎劇。15分の尺でドラマを描くには、ちんたらしてられないとばかりに激烈に展開していく。冒頭ほんの1、2分で、姉妹がともに妊娠、姉は流産し、妹の身籠った子の父親を疑い、ドラマの準備は整う。わずか1シーンでこれをやってしまう鮮やかさは、キム・ギヨンを思わせる。 姉妹の関係性を描く芝居場に階段が選ばれたのが必然としかいいようがないならば、その関係が限界まで来たとき、映画はあるべきラストシーンを迎える。絶対にもうこうなるしかないだろう! だからエクスタシーを感じ、時に観客は笑う。それでいいのだ。
軽やかに描かれる姉妹という<原罪>
日常のステージが音を立てて崩壊する<快感>
第四種危険指定短編映画<初心者には無理>
ーー小中千昭(特殊脚本家)
『BMG』
BMG
2009年/20分/DV
監督・脚本:松浦博直
出演:伊藤まき 西口浩一郎 岸野雄一
撮影:小原悠人 照明:森内健介 録音:朝倉加葉子 助監督:甲斐靖人 冨永圭佑
音楽:瀬川聡嗣 銃器効果:遊佐和寿
STORY
英子は父親の借金により、ある組織の代理殺人を請け負うことになった。やらなければ彼女が殺されるのだ。英子は指示に従って準備を進める中、和夫という青年と出会う。彼は英子に一目惚れをし、彼女をしつこくつけまわす。英子は準備を進め、標的を狙うが失敗。組織の手が伸びて英子に危機が迫る時、和夫が彼女の前に現れる
解説
決してバカではないけれど夢見がちな男が、暗い瞳の女暗殺者に一目惚れをするファンタジー。フィルムノワールへの遠い記憶に連なる展開と歯切れのよい演出で見るものをぐいぐい引っ張りながら、ラスト、勘違い男の楽天性と女の「信じる心」が唖然とするような奇跡を呼ぶ。 なんといっても、女暗殺者を演じる伊藤まきのファム・ファタールぶりが素晴らしい。
コメント
伊藤まき演じるヒロインの容貌、立ち振る舞いが香港の女優サミー・チェンに似ている。それゆえ、私は彼女が軽やかにラブ・コメディとハード・アクションの間を行き来できる才覚に恵まれているのであろうと直感した。私の直感はかろうじて的中し、映画は映画の側に着地した。
ーー塩田明彦:映画監督(『害虫』『カナリア』『どろろ』)
何やら怪しげな男が勧める怪しげな仕事を引き受けた女に向かって、その怪しげな依頼者がささやく。「もし仕事に失敗したら、あなたのからだは世界に散り散りになる」。生身のまま世界に散り散りになってしまうからだとは、いったいどんななんだろう! この強烈な疑問符と共にこの映画は始まる。そして物語の当然の流れとして、女は仕事をしくじる。しかし彼女のからだは散り散りにはならない。これも当然の流れとして、彼女を救う男が現れるからだ。この男は彼女との偶然の出会いを、運命の出会いと勝手に解釈して思わず鼻血を流す間抜けだが、ワンカット・ロングのまま唐突に流れ出す鼻血の画面は、彼女との出会いで今からだが散り散りに解体されつつあるのはこの男だということを告げている。そして一度解体された男は、ラストにとんでもないヒーローとして再生する。ほとんど奇跡としか言いようのないそのラストは必見だ。
ーー万田邦敏:(映画監督『接吻』、『UNLOVED』、『ありがとう』など)
『お姉ちゃん、だいきらい』
お姉ちゃん、だいきらい
2011/13分/DV
監督:佐野真規
出演:久保紫苑 内藤瑛亮 加藤綾佳 川口陽一
撮影:星野洋行 録音:清水絵里加 助監督:冨永圭祐 演出助手:山形哲生
STORY
シオンは自分のお姉ちゃんが変な男とくっついたのが何だか許せない。そこで、2人を別れさせようと企む。気弱そうな先輩を無理やり引っ張り込んで、色々とイタズラを仕掛けるのだが…しかし、シオンが手伝いを頼んだこの先輩、こいつもなんだかしょうもない男だった。4人の男女が織り成すほのぼのコメディー。天真爛漫に男を振り回すシオンが魅力的な短編。
解説
先輩男と後輩女の童貞コメディ。佐野真規は、自分の魅力に無自覚な(フリをしている)女に振り回されることこそ最高の快楽、と言わんばかりにとことん男をしょうもなく描く。観ながら思わず「とぼけやがって」と呟きそうになるほど天真爛漫な悪女が板についている久保紫苑が魅力的。一方の先輩男を演じる内藤瑛亮が時折見せる、胸がざわめくような暗い眼差しは、この微笑ましいコメディにあって唯一の悪意を添える。そして観た後、はたと気づくのだ。この男、うらやましいぞ、と。
『ちるみの流儀』
ちるみの流儀
2011年/20分/DV
監督:川島玄人
出演:浜田みちる 芳士戸一成 山田達也 川島玄人 神保卓也
解説
映画学校のビデオ課題の撮影のために集まった監督カワシマと女優のちるみ。しかし相手役が遅刻していて撮影が始まらない。やっと来た相手役をねちねちと虐め始めるちるみは、すでに劇用の酒でしたたか酔っていた……。抱腹絶倒、連作スタイルのフェイク・ドキュメント。なんといっても自己中心的でワガママ放題の女優・ちるみを演じる浜田みちるの存在感が素晴らしいのだが、時々演技なのか素なのか判らなくなる瞬間がありスリリング。突然撮影現場から逃走する彼女の後ろ姿は必見。
『赤猫』
赤猫
2004年/42分/DV
監督:大工原正樹
出演:森田亜紀 李鐘浩 藤崎ルキノ 永井正子
脚本:井川耕一郎 撮影:福沢正典
STORY
私(李鐘浩)の出張中、妻の千里(森田亜紀)が流産した。風呂の電球を替えようとして、椅子から転落して流産したのだ。
退院後の千里は何もしゃべらず、マンションのベランダからただ遠くを見つめているだけだった。
だが、ある夜、ふとしたことをきっかけに、千里は流産に至る経緯を私に話しだした。
近頃、町で頻発している連続放火事件……。
偶然に聞いた夫が浮気しているという根拠のない噂……。
いるはずのない猫の気配を感じ取り、ネコアレルギーの症状が出たこと……。
夫が学生時代に買った本の中から出てきた一枚の古い写真に写っている女性……。
日常生活で些細な疑念や異変が積み重なっていく中、ある日、千里は放火犯を意味する「赤猫」という隠語を耳にする。
そして、そこから千里の話はとうてい信じられないような方向へと展開してゆく……。
解説
ナレーションやモノローグ表現の極致ともいえる一本。人が狂っていくのを目の当たりにするのは恐ろしい。ましてここでは結果が先に知らされているのだ。ことの次第を聞いていくうち、夫は目の前にいる妻が見知らぬ他人に見えてくる。観る者はその緊張感と恐怖で息が苦しくなる。やがて真っ暗な背景のなか、森田亜紀がこちらに向かって語りはじめる、そこに誰もいないかのように……。ラストが訪れたとき、私たちは解放され心底ホッとするだろう。劇中の夫も実はそうだったのではないか。